はじめに
第1回では「自分が分からなくなる理由」と「複数の側面としての自分」について紹介しました。
今回はさらに一歩進めて、なぜ人はつい自分より他人を優先してしまうのかを掘り下げます。
幼少期や職場環境で身についた後回しの知恵
人を優先する行動は、弱さではなく環境の中で身につけた知恵です。
幼少期に「我慢がえらい」「人に迷惑をかけないのが正しい」と教えられたり、兄弟姉妹の面倒を見ることが自然に染みついていたり。
職場でも「周囲に合わせるのが当たり前」とされることで、その習慣はさらに強化されます。
こうして育まれた「人を優先する力」は本来とても価値のある資質です。
しかし、常に自分を最後にする割合が高くなると、心の声が聞こえなくなり、疲労や落ち込みにつながります。
自分を優先できないときの身体反応
「自分を優先しようとすると体が固まる」
これは心理学でいうフリーズ反応に近いものです。
闘争・逃避反応(fight or flight)が強く出て「行動を起こすと危険だ」と体が判断したときに自然に起こる反応です。
嫌な気持ちはその裏にある恐れから来ていることが多く、長い間「人を優先することが安全だ」と学んできた証でもあります。
この身体反応と嫌な気持ちは、自分を優先できない理由のひとつです。
違和感は真の自分からのサイン
「理由は分からないけれど嫌な気持ちになる」「このままでいいのかと揺らぐ」などの違和感は、弱さではなくTrue Self(真の自己)から届いているサインです。
それは「何かが足りない」「本当の自分を探したい」という感覚であり、あなたの内側が自分らしさを取り戻そうとしている証拠です。
違和感を無視するのではなく、自分を振り返る入口として受け止めることが大切です。
自分を後回しにするくせから抜け出せず、同じサイクルに悩んでいる方へ。
一歩前進するための「天使からのガイダンス」の記事、みか月と三ツ星オリジナルポエムもあわせてお楽しみください。
境界線と後回しの関係
自分を優先しない行為は、相手の領域を広げ、逆に自分の境界線を狭めてしまいます。
その結果「NOと言えない環境」が無意識に作られ、相手も気づかないまま固定化されていきます。
境界が曖昧になるほど、自分を後回しにする割合が高まり、心の摩耗につながります。
境界線を整えることは相手を拒絶することではなく、自分を自分として扱う透明なフレームを取り戻すことです。
このフレームがあると「今日は引き受けても大丈夫」「これは私の本音とは違う」といった小さな自己調整が可能になります。
役割が境界を曖昧にする理由
私たちは家族、学校、職場など、場面に応じてさまざまな役割を自然に使い分けながら生きています。
この能力自体はとても大切ですが、役割で過ごす時間が増えすぎると、内側の自分との境界が少しずつ曖昧になっていきます。
その結果、次のような感覚が生まれやすくなります。
- 何に疲れているのか分からない
- 頑張っているのに満たされない
自分を後回しにしていないかを確認するチェックリスト
役割の自分と本体の自分の境界が曖昧になると、どこかで無理が積み重なり、静かな違和感として現れます。
下のチェックリストは、そのサインに気づくための簡単な自己確認です。
当てはまる項目が多いほど、あなたの内側の声が聞こえにくくなっている可能性があります。
| チェック項目 | はい |
|---|---|
| 頼まれると断れず、予定が埋まってしまうことが多い | |
| 体調が悪くても休まずに無理をしてしまう | |
| 会議や集まりで、自分の意見を言う前に時間がなくなる | |
| 食事や休憩を後回しにして、空腹や疲労を抱えたまま過ごす | |
| 飲み会や食事で、ほとんど食べていないのに割り勘にしてしまう | |
| 家族や友人の予定を優先し、自分の時間がなくなる | |
| 自分の悩みを話そうとすると退屈そうにされると感じて話せなくなる | |
| 休日も人に付き合い、自分の休養や趣味が犠牲になる | |
| 「自分のことを話すと迷惑かも」と思い込み、自己表現を控えてしまう | |
| 人から「優しい」「気が利く」と言われるが、その裏で自分の欲求を抑えている |
チェック数からわかる傾向
| はいの数 | 診断結果 |
|---|---|
| 0〜3個 | セルフケアは比較的できています。今のバランスを大切にしながら、余裕のある部分をさらに整えるとより安定します。 |
| 4〜6個 | 少し自分を後回しにしがちな状態です。優しさが強く、人に合わせる場面が増えています。「小さな自分優先」を試す時期かもしれません。 |
| 7〜8個 | 後回しぐせが定着している傾向があります。本体の自分の声がかき消されている可能性があり、疲労が蓄積しやすい状態です。 |
| 9〜10個 | 深刻に自分を犠牲にしている状態です。このままでは心身にも影響が出やすいため、意識的に「自分を優先する許可」を与えることが重要です。 |
チェックが多くても心配はいりません。多くの人は長い時間をかけて役割の自分を優先してきただけで、本体の自分が失われているわけではありません。
境界が見えるようになることで、内側の声は少しずつ戻ってきます。
ここからは、役割と本体の自分を区別していくとどんな変化が起こるのかを、さらに詳しく見ていきます。
境界を取り戻すと起きる変化
境界が見えるようになると、あなたは役割に飲み込まれず、必要なときは役割を脱ぎ、必要なときは着る…そんな風に軽やかにスイッチできるようになります。
本体の自分がしっかり息をしていると、役割の自分の質も自然と変わります。
無理からくる頑張りではなく、内側の芯から動けるようになるため、疲れ方がまったく違ってくるのです。
そして何より、自分に正直でいられる瞬間が増えていきます。
この正直さこそ、自分らしさの核心であり、人生の手触りを変えていく力です。
境界が薄くなる背景と心理
人は誰しも、環境のなかで生き抜くために役割を身につけます。社会に合わせる自分、家族の中で振る舞う自分、期待に応えて動く自分。これらは生存戦略であり、適応の知恵です。
ところがその役割が長く続きすぎたり、強く求められ続けたりすると、知らず知らずのうちに境界は薄くなっていきます。
本体の自分の声と役割の自分の声。この二つが混ざり合い、どれが自分の本音か分からなくなる。その結果、「頑張っているのに満たされない」「休んでも疲れが取れない」といった心の摩耗が起きやすくなります。
境界が整うと、これらの感覚は自然に減っていきます。なぜなら、あなたらしさの源が中心に戻り、役割の自分を必要に応じて選択できるようになるからです。
求められるままに反応するのではなく、「今日は役割を少し脱いでみよう」「これは私の本音とは違う」「これは引き受けても大丈夫」。そんな小さな自己調整が可能になります。
境界線とは、外界から距離を置くための壁ではなく、自分を自分として扱うための透明なフレームです。
なぜ自分を後回しにしてしまうのか
人が自分を後回しにしてしまう背景には、生まれ育った環境や過去の経験が深く関係しています。
- 小さい頃から「我慢がえらい」と言われて育った
- 人に迷惑をかけないことが正しいとされていた
- 相手の機嫌を優先しないと不安だった
- 断ることで嫌われるのが怖い
これらはすべて「その環境で生き抜くために必要だったスキル」です。
相手を優先してしまう人の共通点
自分を後回しにする人は、総じて次のような特徴を持っています。
- 相手の気持ちを素早く読み取れる
- 気遣いが自然にできる
- 場の空気を和らげる力がある
- 「嫌な思いをさせたくない」思いが強い
これらは本来、とても価値の高い資質です。
ただし長く続くと、心の優先順位がいつの間にか「自分 → 最後」になってしまいます。
自分を後回しにする癖は「悪い性格」ではありません。
ただ“無意識にやりすぎてしまう”と、本心が分からなくなりやすくなるだけなのです。
「相手を優先したい」と「本当は疲れている」の間で揺れる
たとえば次のような瞬間があります。
- 誘われると断れないのに、行くと疲れる
- 頼まれると応えたいけれど、気持ちは重い
- 相手の話を聞くのは好きだけど、心がすり減っていく
このように「やりたい」と「疲れる」の両方があるのは自然なことです。
“優しさ”と“我慢”の境目が曖昧になる理由
あなたの優しさは本物です。
しかしその優しさが「期待に応えなければならない」という緊張と結びつくと、我慢の方が前に出てしまいます。
優しさからの行動なのか、義務感からの行動なのか、境目が曖昧になると本音が見えにくくなります。
自分を後回しにしないための小さなステップ
大きく変えようとしなくて大丈夫です。まずは次のような小さな一歩から。
- 「今どう感じている?」と自分に短く問いかける
- 迷ったらすぐ返事をせず「少し考えるね」と言う
- 1日に5分だけ、やらないことを作る
- 疲れたら休むを最優先にする時間を1つ作る
これだけで、自分を無意識に後回しにしてしまう流れが少しずつ変わります。
この記事のポイントまとめ
- 自分を後回しにする癖は、生き抜くための「身につけたスキル」
- 相手を優先できるのは本来の強みである
- 優しさと義務感が混ざると、本音が見えにくくなる
- まずは小さな一歩から、自分の声を取り戻せる
次回の記事内容
第3回では、心の声が分かりにくくなっているときに役立つ「体の反応から感情を読み解く方法」をくわしく紹介します。
- 第1回:自分が分からないと感じる理由(公開済)
- 第2回:なぜ自分を後回しにしてしまうのか(本記事)
- 第3回:体の反応から感情を読み解く方法(公開予定)
- 第4回:総まとめとセルフチェック(公開予定)


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