人とのつながりが怖いあなたへ|愛着トラウマと防衛スタイルから見る心の回復

自然の中で赤ちゃんを抱き上げて見つめる母親。安心感とつながりを象徴するシーン。
母と子の絆が安心感を育む──神経系の視点から見るトラウマ回復
人といると不安になる、距離を置きたくなる─その反応は性格の問題ではなく、幼少期に学んだ神経系の反応パターンが影響していることがあります。本記事では具体例とともに4つの愛着スタイルを示し、神経系の視点から回復プロセス(安全体験+パーツワーク)を紹介します。

シリーズリンク:第1回:トラウマとは?(導入)

後日公開予定:

  • 第3回:心の傷が身体に及ぼす影響と慢性不調
  • 第4回:神経系の回復と認知の再構築

なぜ人との関係が怖くなるのか

人間関係で心が傷ついた経験は、長く心に残り、その後の人付き合いに影響することがあります。幼少期の環境は神経系の反応パターンとして学習され、無意識に働く場合が少なくありません。

幼い頃に両親のスキンシップや共感的な関わりが少なかった場合、安心感を得る機会が減ってその「足りなさ」が積み重なります。こうした小さなストレスの積み重ねは、神経系の働きに長期的な影響を与え、トラウマ反応として心身に固定化されることがあり、成長後に人と接するときに身体が勝手に緊張したり、呼吸が浅くなる反応を起こしやすくなります。

また、長期的な不安定な養育環境で育った場合、それは発達性トラウマと呼ばれ、人格形成の深層に影響を及ぼします。どちらも心の傷というより「神経系の学習パターン」として残るのが特徴です。

つまり、人との関わりで不安を感じるときは、心の問題だけでなく、身体が先に反応していることが多いのです。

幼少期のトラウマが人との関わり方を形づくる例

小さなストレスの積み重ね

幼い頃に、安心できる関わりや寄り添いが少なかった場合、心と神経は「人との関係は少し危険かもしれない」と学習してしまうことがあります。
これは、明確な虐待や放置だけではなく、「さびしさ」「不安」「気を使うことが当たり前だった」など、日常の中で小さなストレスが積み重なることで起こるものです。

身体に残る緊張の記憶

こうした経験が続くと、神経系が常に緊張状態になりやすくなり、成長してからも人前で身体がこわばったり、呼吸が浅くなったりといった反応が出やすくなります。
つまり、心の問題というよりも、神経系が身につけた「安心できない状態のクセ」として残るのです。

性格ではなく神経系の反応

そのため、大人になってからの人間関係で「理由もなく不安になる」「相手の顔色を気にして疲れる」といった悩みが生まれやすくなります。けれどもこれは性格の問題ではなく、幼少期に身についた身体の反応パターンが今も働いているだけなのです。少しずつ安心を取り戻すことで、神経系は新しい反応を学び直すことができます。

【補足・専門的には】
このような背景は臨床心理学では「発達性トラウマ」や「複雑性PTSD」と呼ばれています。ICD-11(国際疾病分類)でも関連する項目として議論されています。
頼っても届かない経験が多かった場合
泣いても誰も来てくれなかった子どもは「頼るのは無駄」と学び、大人になっても人に頼れず孤立しやすくなります。
厳格で不安定な養育環境の場合
厳しく育てられた人は、関係を保つために相手をコントロールしたり、過度に気を使って疲弊しやすい傾向があります。
愛情表現が一貫しなかった場合
時に優しく、時に無関心という不安定な接し方は「誰が安全か」がわかりにくくなり、人間関係で揺れやすい反応をもたらします。
※発達性トラウマ障害(DTD)は正式な診断名ではありませんが、複雑性PTSDとの関連で議論されています。詳しくは 銀座泰明クリニックの解説 をご参照ください。

愛着スタイル(4つのパターン)

4つの主要な愛着スタイル

タイプ 日常の特徴 神経系の反応
安定型 相手を信頼し、適切な距離を取れる 腹側迷走神経が働きやすく調和的
回避型 親密さを避け、自立的に振る舞う 交感神経優位で緊張が持続
不安型 相手への不安や見捨てられ不安が強い 神経系の変動が大きく揺れやすい
恐怖型 親密さを求めつつ恐れる矛盾した反応 交感・背側迷走神経の切り替えが不安定

愛着トラウマに由来する「自己防衛スタイル」

Sensorimotor Psychotherapyによる5つのスタイル

ジャニーナ・フィッシャーとパット・オグデンは、『Sensorimotor Psychotherapy: Interventions for Trauma and Attachment』(2015, Norton)において、これらを「愛着関連の防衛スタイル」として紹介しています。

  • Complying / Pleasing(従う・気に入られようとする)
  • Caregiving(世話することでつながりを保とうとする)
  • Performing / Achieving(成果で価値を証明する)
  • Avoiding / Withdrawing(距離をとって安全を確保する)
  • Controlling / Resisting(支配・反抗によって安心を得る)

生き延びるための戦略だった

これらのスタイルは「欠点」ではなく、かつての環境で生き延びるために選ばれた最善の戦略でした。癒しは、それらを否定することではなく「理解すること」から始まります。

神経系の反応と人とのつながり方

3つの神経モード

状態 特徴 人との関わり
安心モード 呼吸が落ち着き、心が安定 共鳴(コレギュレーション)が起きやすい
緊張モード 体がこわばる 相手の反応に過敏になりやすい
心が閉じるモード 無気力や遮断感 関係を避けたくなる

これらはそれぞれ腹側迷走神経・交感神経・背側迷走神経に対応します。切り替えがスムーズになるほど、対人関係で安定しやすくなります。

神経系の視点で見る回復の流れ

回復の3段階

  1. 安全の確保(身体が安心できる環境)
  2. 統合(感情や記憶を再体験して意味づけを変える)
  3. 再接続(人といても自分の安心を保てる)

回復方法:関係の力と内なる養育者(パーツワーク)

1)安心できる人との関係を増やす

信頼できる相手との小さな成功体験が、神経系に「安全」を再学習させます。

2)内なる養育者を育てる:パーツワーク

自分の中の「傷ついた子ども(インナーチャイルド)」に優しく寄り添い、「内なる養育者」として支えるワークです。

簡単なワーク例

  1. 静かな場所で深呼吸を3回行う
  2. 怖がっている自分に優しく話しかける
  3. 今できる安心行動(休息など)を提案する
  4. 体の感覚を確かめて終える

このような繰り返し体験が「外の安心」から「内なる安心」への橋渡しになります。

日常でできる小さな実践

  • 5分間の腹式呼吸(吐く息を長く)
  • 安心できる言葉や人をメモに書いておく
  • 話す前に2回深呼吸する習慣
  • 信頼できる人に短時間話を聞いてもらう
※深いトラウマがある場合は、専門家のサポートを受けながら行うのが安全です。お問い合わせはこちら

まとめ:つながりと内側の安心が回復を支える

トラウマの影響は、幼少期に形成された神経系の反応パターンと深く関係しています。しかし、安心できる関係の中での共調整(コレギュレーション)と、内なる養育者の育成により、反応は少しずつ書き換えられます。回復は「つながりを取り戻す旅」です。

当サロンでのサポート

呼吸ワーク・身体感覚セッション・パーツワークを通じて、安心感の再学習を支援しています。詳細はこちらをご覧ください。

参考文献:Pat Ogden & Janina Fisher (2015). Sensorimotor Psychotherapy: Interventions for Trauma and Attachment. Norton Professional Books.

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