第2回では、恥ずかしい場面のただ中で起こる反応――頭が真っ白になる、怒りが込み上げる――を見てきました。今回は、その出来事がもう終わっているはずなのに、思い出すたびに当時の反応がよみがえってしまう仕組みを見ていきます。
「恥ずかしい」という感情を理解するシリーズ
第1回|恥とはどのような感情なのか
恥(羞恥心)の基本や、恥が心だけでなく身体にも現れる理由、「恥ずかしい出来事」と「自分はダメだ」という感覚の違いについて取り上げています。
→ 第1回「恥とは?」を読む
第2回|恥が緊張や怒り、人間関係に影響するとき
恥が緊張や怒りとして現れるときの仕組みや、人前で頭が真っ白になった体験、過去の恥が人間関係に影響しているケースなどを取り上げています。
→ 第2回「恥が緊張や怒り、人間関係に影響するとき」を読む
第3回|過去の恥に振り回されないためのセルフケア(本記事)
過去の恥ずかしい記憶を思い出してしまうときの捉え方や、「あのとき」と「今」を分けて考えること、恥ずかしさに圧倒されそうなときに自分でできるセルフワークについて取り上げます。
これまでのシリーズでは、恥というものがどのような感情なのか、そして恥が緊張や怒りとしてどのように現れるのかを見てきました。
読んでいただいた方の中には、「自分にも似たような反応がある」と感じた方もいるかもしれません。
恥ずかしい記憶は、時間が経っても色褪せず、ふとした瞬間に身体ごと当時に引き戻されたような感覚を連れてくることがあります。
この最終回では、そうした過去の恥ずかしい記憶とどう付き合っていけばいいのか、そして恥ずかしさに圧倒されそうになったときに自分でできるセルフワークについて、具体的にご紹介していきます。
過去の失敗を思い出して、今でも恥ずかしくなるのはなぜ?
何年も前の出来事なのに、ふと思い出しただけで「うわっ!」と叫びたくなったり、髪の毛をかき乱したくなったり、身体がヒュッと縮むように感じたりすることはありませんか?
誰かに笑われたこと、人前で大失敗したこと、あのとき言わなければよかった言葉。今はもう誰にも責められていないし、安全な部屋にいるはずなのに、思い出した瞬間に当時の「いたたまれない空気」まで戻ってきたように感じることがありますよね。
恥ずかしかった記憶と当時の感情や身体反応のよみがえり
人前で失敗したその瞬間は、頭が真っ白になったり、なんとかその場をやり過ごすことで精一杯だったりします。実は、出来事が起きた本番中よりも、後から一人で思い返したときの方が「なんて恥ずかしいことをしてしまったんだ……」と強く実感することも珍しくありません。
そして不思議なことに、「思い出す」という行為は、頭の中だけの再生にはとどまりません。顔が急に熱くなる、胸がぎゅっと縮む、息が止まるといった身体の反応が、当時の記憶と一緒によみがえってきます。
頭では「もう終わったこと」「今は誰も見ていない」と分かっているのに身体が反応してしまうことがあります。脳の防衛システムが、過去の記憶を再生しただけで「今も危険なのではないか」と勘違いし、身体に警戒信号を送ってしまうためです。
「他人の目」で自分を振り返ってしまう罠
もう一つの理由は、今ここにいる大人の自分が、当時の自分を「あのとき、周りの人にはどう見えていたんだろう」と、他人の視点から見直してしまうことです。
今は誰もあなたのことを見ていません。それなのに、思い出すたびに当時の「周りからの冷たい視線や笑い声」のイメージまで一緒に脳内で再生され、そのたびに当時の痛みが呼び戻されてしまうのです。
こうしたことも、何年経っても恥の感覚がよみがえる一因になることがあります。
ここで一番大切なのは、「今、何か恥ずかしいことが起きている」のではなく、「過去の記憶に触れて、身体の防衛反応が動いているだけなんだ」と区別することです。この2つを切り離して捉えられるようになるだけでも、反応の受け止め方が変わってくることがあります。
では、この「過去の記憶」と「今の身体の反応」をどのように分けて扱っていけばいいのでしょうか?次の章では、自分でできる具体的なセルフワークの手順を詳しくご紹介します。
恥に振り回されないために、自分でできるセルフワーク
日常レベルの恥ずかしさや、過去の失敗を思い出したときのセルフケアを扱っています。強いフラッシュバックや怒りの爆発、対人関係への大きな支障がある場合は、専門的なサポートが必要なことがあります。
ここまで読んで、「自分にも恥が関係しているのかもしれない」と感じた方もいるかもしれません。
恥の反応は、時にとても強くなります。
頭では「もう昔のこと」「気にする必要はない」と分かっていても、身体が思い出したように反応してしまう。
そんなときに役立つのが、頭の中だけで解決しようとせず、身体と現在の状況に意識を戻すことです。
恥ずかしく感じた時には、まず身体を感じてみる
恥ずかしい記憶を思い出したとき、あるいは人との関わりの中で恥を感じたとき、身体に最初の反応が出ることがあります。
- 胸がギュッと縮む
- 息が止まる、浅くなる
- 顔や耳が熱くなる
- お腹が固くなる
- 肩や首に力が入る
- 目をそらしたくなる
- その場から離れたくなる
- 身体を小さくしたくなる
このとき、「どうしてこんなことになったのだろう」と考え続けるより、まず「今、身体に何が起きている?」と感じてみてください。
「胸が縮んでいる」「顔が熱い」「足に力が入っている」くらいで十分です。細かく正確に言葉にできなくても構いません。
恥ずかしかった「あのとき」と「今」を分ける
過去の恥ずかしい記憶が浮かんだときには、身体がその場面に引き戻されたように感じることがあります。
そんなときは、現在の具体的な情報に意識を向けてみましょう。
- 「今いる場所はリビングで、このクッションをいつも使っている」
- 「今日は○月○日」
- 「明日は○時に起きる」
- 「明日はこの予定がある」
今の自分がいる場所や時間、これからの予定、普段使っている安心できるアイテムなどを確認します。
過去の出来事を否定するのではなく、「あのとき」と「今」は違うということを、現在の具体的な情報で確かめていくイメージです。
身体の反応が強くなったら、動きで切り替えてみる
私自身が恥の感覚を扱う中で使っている方法の一つに、頭を小さく動かして切り替える方法があります。
自分が恥を感じた時の反応に気づいたら、頭を左右に軽く1〜3回程度振ります。(これは、否定的な考えや恥ずかしかった記憶が再生され始めていることに気づき、それに対して「NO(いいえ、それは今起きていることじゃない)」を身体で表現するポーズです)
そして、一度ゆっくり深呼吸をします。(意識の切り替え)
今度は小さくうなずきます。(一連の行動を終えて、自分の状態が変わったことを確認できたら、「YES(過去の記憶に巻き込まれず、今の状態に戻れている)」ということを、自分自身に対して肯定的に表現するポーズです)
そのあと、これからすることや明日の仕事など現実の予定を具体的に思い浮かべます。
これは、恥ずかしい記憶を消したり、「もう恥ずかしくない」と自分に言い聞かせたりするためのものではありません。
記憶に引っ張られた意識を、身体を使って今の自分へ戻す方法として使っています。
この方法は研究で効果が確認されたものではなく、私自身が実践の中で取り入れている方法の一つです。
恥だと思っていたものを、もう少し細かく見てみる
恥の反応を振り返ってみると、「恥」だけでは説明できないことに気づく場合があります。
- 恥ずかしさより「怖い」が強かった
- 恥ずかしさのあとに「悔しい」が出てきた
- 悲しさを感じる前に怒りが出ていた
- 恥ずかしいというより、とにかく逃げたかった
- 相手にどう思われたかより、その場にいられない感じが強かった
こうして見ていくと、これまで一言で「恥ずかしい」とまとめていた反応の中に、いくつもの感情や身体感覚が重なっていたことが見えてきます。
恥、怒り、恐怖、悲しみ。それらを少しずつ区別していく作業は、「自分はいったい何に反応しているのか」を知る手がかりになるはずです。
セルフワークは、無理をしない範囲で
恥の体験には、人によって大きな違いがあります。
セルフワークをしていて苦しさが強くなったり、身体の反応が収まらなくなったりする場合は、そこで続ける必要はありません。
目を開けて周囲を見る、足の裏を感じる、現在の日時や場所を確認する。今ここに戻ることだけでも十分な場合が多いです。
過去の出来事を思い出すことで強い苦痛が続く場合や、人との関わり、仕事、外出など日常生活に大きな影響が出ている場合は、一人で抱え込まず、医療機関など専門家への相談も選択肢に入れてください。
恥を完全になくそうとする必要はありません。
「恥を感じたとき、自分に何が起きているのか。そして、そこからどう現在に戻ってくるか」を知っておく。
それだけでも、これまでとは違った形で自分の反応と付き合えるようになっていきます。
恥に振り回されず、自分らしく人と関わるために
ここまで、恥という感情について、さまざまな角度から見てきました。
「恥ずかしかったことを何度も考えてしまう」方も少なくありません。
恥じた経験が、身を守るための怒りとして出て、普段ならしないような強い反応になってしまうこともあります。
その反応が、過去の出来事とは関係がないと思っていた現在の人間関係に影響していることもあります。
セッションでは、心身のバランスが保たれているかをチェックしながら行います。恥ずかしかった経験を無理に思い出したり、考え方だけを変えようとしたりすることはありません。
日常で恥ずかしさが出てきた時に戻れるような方法を一緒に探しながら自然とそれができるようになることを大切にしています。
「人前に出ると身体が固まる」
「人からどう見られているかが気になってしまう」
「何気ない一言に強く傷ついたり、怒りが出たりする」
「昔の出来事を思い出すと、今でも身体が反応する」
どんな場面で反応が起きるのか。身体には何が起きているのか。どんな感情が重なっているのか。
自分では見えていなかった反応のパターンに気づくようになるかもしれません。
自己理解が深まり、毎日が少し楽になるようなサポートを心がけています。
「自分の反応について、もう少し整理してみたい」
そんなところからでも大丈夫です。
お気軽にご相談ください。
※本記事は、一般的なセルフケアの範囲の情報提供を目的としており、医療的・心理的な診断・治療を代替するものではありません。日常に支障が出るほどのつらさがある場合は、専門家への相談を検討してください。
参考文献・参考にした研究
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感情記憶と身体反応
恐怖や危険にまつわる記憶は、脳の扁桃体によって身体反応と強く結びつけられた形で保存されることが、動物実験や神経科学の研究で示されています。
LeDoux JE. The Emotional Brain: The Mysterious Underpinnings of Emotional Life. Simon & Schuster; 1996.
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記憶の再活性化と身体反応
一度保存された恐怖の記憶は、思い出される(再活性化される)たびに、再び不安定な状態に戻り、当時の身体反応が呼び起こされることが動物実験で示されています。
Nader K, Schafe GE, Le Doux JE. Fear memories require protein synthesis in the amygdala for reconsolidation after retrieval. Nature. 2000;406(6797):722-726.
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グラウンディング技法と「今ここ」への意識づけ
五感や身体感覚を通して今の環境に意識を向けるグラウンディング技法は、不安や苦痛な記憶が強く想起される場面で、意識を現在に戻す方法として、トラウマケアの分野で広く用いられています。
Najavits LM. Seeking Safety: A Treatment Manual for PTSD and Substance Abuse. Guilford Press; 2002.
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身体に刻まれたトラウマ・苦痛の記憶(臨床的知見)
強い苦痛を伴う記憶は、言葉による物語としてだけでなく、身体の感覚や反応として残ることがあると、トラウマ治療の臨床経験から論じられています。この分野は現在も研究が進められており、理論の一部には学術的な議論もあります。
van der Kolk B. The Body Keeps the Score: Brain, Mind, and Body in the Healing of Trauma. Viking; 2014.
